ー表題写真について 祖父、宇津木正から譲り受けた本、柳宗悦著 「南无無阿弥佛」ー

日本民芸運動で著名な柳宗悦が、このような本を書いていたのには驚いた。日本民芸運動に参加した作家たちは、棟方志功、芹沢銈介、河井寛次郎、浜田庄司、富本憲吉、バーナード・リーチなど、分野は違えども大作家が多い。 柳宗悦と彼らは、各地の制作場所をお互いに訪ね、対話を繰り返した。棟方志功も浄土真宗からの影響を自伝に記述しているように、日本民芸運動の背景に浄土真宗があったことは疑いようがない。

凡愚とは、浄土真宗の思想的中核をなす文言である。 自分は普通ではありたくない、特別な存在でありたい、そう考えるのが、普通の人間だ。ならば、自分は凡愚であると思える人間こそ、非凡な人物であるかも知れない。

黙々とひたむきに、特別なことは何も無いように、当たり前に仕事を繰り返す。日本民芸運動の作家たちは、愚直ともいえる仕事ぶりが、顕著だ。しかし作品はというと、まるで、エネルギーが溜まって爆発し、一気に高みに上るような、非凡なものとなった。誰もが出来るような仕事が、誰にも真似の出来ないような仕事になる、その実例を示してくれたようでもある。

また羨ましいことに、彼らはお互いの仕事場を訪ね、それぞれに刺激を受け合ったりと、相乗的にお互いを高め合ったような所がある。凡愚と自らを謙遜出来る間柄は、他の分野から刺激を受けるにも、垣根は低かったはずである。 彼らの仕事が、いわゆる家内制手工業芸から、3歩も4歩も抜け出して、眩いきらめきを発したのは、そのような理由があると考える。

当に、凡愚から非凡へ。

―祖父の蔵書よりー